コラム

スペイン留学の思い出

 私がフラメンコとスペインに興味を持ったのはバルセロナオリンピックが開催される年でした。
1992年の2月ごろ、スペインを特集したテレビ番組を高校1年生の時に見た時から頭の中はスペインとフラメンコのことでいっぱいになりました。
すぐにスペイン語を自分で勉強し始めたり電話帳でフラメンコ教室を探したりしました。スペアリブでもフライドチキンでも誰かが「スペ」や「フラ」と言ったのを聞いたりその文字が目に飛び込んで来るだけで心臓が跳ね上がり胸が締め付けられ、鼓動が速くなったくらいです。そして、スペイン語スペイン文学科がある大学に入ることを決めました。
 大学3年の時にグラナダ大学付属の外国人コース(セントロ・デ・レングアス・モデルナス)に留学しました。
寮では100人のスペイン人女子学生の中で唯一の外国人として生活しました。私の通っていた日本の大学から毎年一人がその寮に1年間住めるのです。留学前に先輩が「アルプスの少女ハイジを歌えるようにしていった方がいいよ。」とアドバイスしてくれました。 歓迎会で新入生達はひとりずつ芸を披露しなければならず、日本の先輩達は代々ハイジの歌を歌ってきたとのこと。そうするとスペイン人の女の子達が日本語で一緒に歌ってくれて大合唱になったそうです。今40~50代のスペイン人は子供の頃ハイジをアニメで観ていた人が多く、歌が日本語だったそうです。子供のころに覚えてた歌は忘れませんよね。
 当日披露する芸(楽器、歌、踊り、コントなど)を練習する以外にも、やらなくてはならないことがありました。
ひとつは、新入生各自に割り当てられた上級生1人に厚紙などで手作りした小物を入れる箱をプレゼントしなければならないことで、そのためその上級生に好みの色や箱の大きさや形を直接聞きに行かなければなりませんでした。もうひとつは新入生1人ずつに対する仮装の指示で、私には「椰子の木」でした。段ボールなどの材料をもらうために新入生達で近くのお店を回りました。私は器用ではありませんが、私の作った箱と椰子の木のかぶり物の出来栄えを見た先輩や友達は「さすが日本人の手仕事だ」と感心していました。
当日、私はセビジャーナス(アンダルシア地方のお祭りやパーティーで盛んに歌い踊られる曲)を踊りました。
(スペイン人の子たちもみんなも恥ずかしがったり緊張したり、私と同じなんだなと思っていたのですが、本番での開き直り方が日本人とはちょっと違った!) 
「フラメンコが大好きな日本人の子がいるよ」と私はいろいろなところで踊らせてもらいました。 寮ではクリスマス会と終了式の時、学校ではスペイン文化の授業で友人が研究発表する時に教室で踊ったりしました。
 特に心に残っているのはグラナダ大学の文化活動発表会です。観客で満員のグラナダ大学の講堂でひとりで踊った自分の度胸には今でも感心し、思い出すたびに「よくやった!」といまだに自分で自分を褒めています(私はグアヒーラを踊りました。アメリカでプロのフラメンコギタリストとして活動しているというアメリカ人留学生が同じコースにいたので、ギターを弾いてもらいました)。踊る機会をくれて暖かい拍手をくれたスペイン人の寛容さに本当に感謝しています。
 寮でも授業でも恥をかいたり辛かったことも山ほどあり泣きたいことだらけでしたが、 毎日フラメンコのレッスンに通えることを喜びとして支えとして頑張った留学生活でした。

ピラティス大好き!

 ピラティスとは正しい姿勢や動きを体に覚えこませるエクササイズです。長男が赤ちゃんだった時に、乳児を持つ母親向けのピラティス講座に参加して、これは私の性格にすごく合うと思い数年間マンツーマンで習っていました。
 集中して正確に行うことが重要で、信頼する先生にじっくり指導してもらうと効果をとても実感できます。 フラメンコにつながる道を探しながら体の中をすみずみまで探検しているような気持ちになって面白いです。
 自分の体なのにコントロールすることの難しさに驚きますが、体の中をじっくりと観察しているとどんなに小さな部分にも大切な役割があるんだと改めて気づくことがたくさんあります。たとえば「小指をちょっと意識すると肩甲骨がすっと下がる」と知った時は目から鱗が落ちました。私はこれをレッスン中にもよく言います。

 ピラティスを始めて、今までフラメンコの先生達から言われてきたことが今更ながらよく理解できるようになりました。ピラティスという言葉がまだ日本では知られていない頃から先生達はピラティスの原理を自分のものにしていたのですね。 体を芯から鍛えることで心と体をコントロールできるようになり、心身が結びついたような踊りが踊れるのだと思いました。

バレエも大好き!

 フラメンコを始めるまではスポーツにも踊りにも無縁でした。
高校生の時にフラメンコを習い始めましたが、フラメンコの上達のためには正しい姿勢や腕の動かし方を知らなくてはいけないと感じるようになり、数年経ってからクラシックバレエも習い始めました。

 グラナダ留学中にはフラメンコとバレエの両方を習っていました。フラメンコ教室の生徒は日本人とドイツ人留学生が大半を占めていましたが、バレエ教室の生徒達はリヤドロの人形のように美しいスペイン人の少女ばかりで、その中にまじってバレエを習いました。

 踊りを始めた頃は、バレエは天に向かって舞う踊り、フラメンコは下へ下へと深く大地へ根を張るような踊り、と相反するイメージを持っていましたが、フラメンコとバレエを学ぶ程に共通点がたくさんあることに気づきました。
バレエでは「足の裏でじっくり床を舐めるように」と習います。バレエのエレガントなイメージと違うのでそれを初めて聞いた時は驚きましたが、たしかに高く跳ぶためには床をしっかりと踏み込まなければならず、バレエにおいても体と大地とのつながりを感じることが大切です。
バレエの美しさを表現するにも、粘りと力強さが不可欠なのだと思いました。

 一方、「下へ向かって腰を落として」と習うフラメンコでも下半身を安定させるためには上半身を引き上げることがポイントだとわかりました。そうするとステップの音もきれいに出せて足腰の負担も体力の消耗も軽減できます。

フラメンコは靴裏の踵とつま先部分に釘がうってある頑丈なフラメンコシューズを履いて踊りますが、バレエを続けることで足の裏の筋肉の動きまで意識が届くようになり、フラメンコを踊る時も足の裏で地面をとらえる感じで踊れるようになりました。

 フラメンコには跳躍する動作はないのですが、私は軽やかにジャンプすることがとても苦手で、バレエでは「もっと跳んで!」とずっと注意されています。 
いつも悪戦苦闘してますが、バレエを続けることで体の複数の部位に同時に気を配ることがいくらか出来るようになりました。 
鏡に映る体の前面だけでなく背中側も意識すること、右(または左)の方向に移動したり回る時こそ左半身(または右半身)にも注意を払うことなど、 体の反対側や見えていない側を考えながら踊りを練習していると、今まで見えていなかったことが少しだけ見えた、と感じる瞬間があります。