フラメンコ教室エルソル 大事なレッスンポイント (詳細)

だいぶ前ですが、あるスペイン人のフラメンコダンサーがレッスンの時に、「クラシックバレエを3か月間やるといいですよ。やっぱり踊りの基本で大事ですから。でも3か月以上やったらダメ(笑)。フラメンコらしさが薄まってしまうから」とクラスのみんなに言っていました。

私はバレエから学ぶ踊りの基本の奥の深さにはまり、てんでダメながらもバレエにも楽しさを感じるようになり、3か月間どころではなくバレエを習い続けています。そしてフラメンコらしさが薄まるどころか、フラメンコをますます掘り下げていきたいという気持ちが更に湧き上がっています。

このページでは、60個のレッスンポイントの中から抜粋したものを少し詳しくご説明します(順不同)。

バレエレッスンで習ったことも含めて「これをもっと早くから知っていれば良かったのに」と思ったこと、自分の教室の生徒さん達に私がいつも言っていること等を書きたいと思います。

(42) おへその左側と右側の筋肉を縦にのばす。

フラメンコの上達のために大学1年ではじめて通ったバレエ教室でこれを教わった時に、ああバレエを小さい時から習っていてこういうことが身についていたら良かったのに、と心から思いました。お腹の中の深いところにある筋肉を腸腰筋と呼ぶことは、それからだいぶ後になって知りました。踊りにとても重要なところで、自分のすごく弱いところ。あおむけに寝てかかとを思い切り押し出して上半身も目一杯伸びをして、上半身と下半身が分かれてしまいそう、と思うくらいピンと張ったところを意識すると、フラメンコの踊りが大きく変わります。フラメンコの踊りにとっても、腸腰筋は要だと思います。

(6) おへその前に土踏まず。

バレエの基本の立ち方のひとつに、左右の脚を交差させて、左右の内腿と膝を互いにキュッと引き締めて、そしてさらに前の足の小指に後ろの足のかかとをできる限りキュッと近付ける立ち方があります(小さい頃から鍛錬していないと難しい)。フラメンコではその立ち方はしませんが、直線の上に立つことをイメージして、体が正面向きだったとしても、正面に対してななめ45度だったとしても、おへその前に土踏まずが来ることを意識して、後ろだったら尾てい骨の後ろに土踏まずが来ることを意識する習慣がつくと、いろいろな場面で格好がついてきます。

(10)円柱形は速い。円柱形は強い。

うちの子供たちが小5だった頃に国語の教科書に載っていた「生き物は円柱形」というお話を私が好きで、子供から教科書を借りてよく読んでいました。多様な生き物たちの中には共通性もある。それが円柱形!人の体は円柱形で成り立っている(胴体、指、脚、腕・・)。魚や蛇やミミズはほぼ円柱形そのもの。植物だって円柱形の集まりだ(茎、枝、幹・・)。 「円柱形は速い。円柱形は強い。だからこそ生き物の基本の形といえる」。この文章を読んで、踊りの基本にもつながると思いました。自分の体が円柱形そのものになったことをイメージして素早く鋭く回ったり、腰をおとしてじっくり回ったり、円柱形の物を胸の前に抱えていることをイメージして姿勢を整えたり、踊りの助けになる良いイメージを持てると思います。

(32)上半身は上。下半身は下。

当たり前のようでいて難しいです。上半身がだらっと下がっていたり足が踏ん張れなかったり。 ステップの練習の時に、かかとではクルミを割る感じで、鼻の真下にはプールの水面が来ている感じで、と私はよく言います。かなりおなかに力が入り姿勢が良くなると思います。

(19)反対方向に引っ張り合う2本の矢印を体の中にイメージする。

スペインでバレエ教室に通っていた時に、いつも「エッティラテ!(体を伸ばして! estirarse)」と言われていました。スペイン留学する前は身長が159センチなかったのですが(20歳)、1年後帰国して身長を測ったら161センチを超えていて驚きました。でも当時バレエを習っている時には上半身を上げないと・・と考えて体の中に上向きの矢印しか意識していなかった気がします。一方でフラメンコを踊る時には、下半身を下に下に・・と偏った考えを持っていたので下向きの矢印ばかり。上も下も同時に意識していないといけませんでした。踊り手の立ち方の基本である(1)お腹の力で地面を押して、地面を押し上げ続ける、にもつながります。あと、矢印は上下だけでなく左右にも必要です。例えば顔を右に向けた時には、あごの先と左の肩先が逆方向に引っ張り合っている感じです。

(12)土踏まずの下に蟻。

足の裏とお腹はつながっているとバレエ教室で習った時、人の体は面白いと思いました。土踏まずを引き上げるとお腹が上がる。お腹を引き上げると土踏まずが上がる。土踏まずの下に蟻が一匹いて、その蟻をつぶさない感じ。フラメンコでもその状態でステップを踏むと良い音が出ますし、足腰が強くなると上達してフラメンコがより楽しくなります。ちなみに土踏まずのことをスペイン語でプエンテ(橋)というそうです。アーチ型の橋のことでしょう。足裏の発達の違いなどが何だか表れていると思いました。

(7)重くて粘りがある空気を押す感じ。

バレエでは、動きや立ち方やポーズの全てにそれぞれフランス語の名前や番号がきちっと付いていて、曖昧なところがなくてすごいなーと思います(フラメンコは大らかですね!)。腕の位置にもひとつひとつ名前が付いています。でも”前方に”、”下に”、”上に”という風になぜ前置詞で言葉が終わっているんだろうと長く不思議に思っていました。そこに隠されている言葉は「空気を押す」なのだと習った時には目から鱗でした。フラメンコでも、それを意識すると重みが表現できて踊りが良くなります。動かすものは腕ではなくて、空気。

(20)顔が向いていない方に気を配る。

人は、顔が向いている方に意識の8割が行ってしまうそうです。(15)反対側を意識する、につながりますが、アバニコやコルドベスを持っていない側にもう少し表情が欲しい、と言うと皆さんハッと気付いて踊りが良くなります。

(21)上あごを床と平行にする。

歯医者さんの待合室にあった本に書いてあったこと。下あごは可動性だが上あごは不動。上あごを床と平行にすると姿勢がまっすぐになる。わかりやすい表現だと思いました。

(29)先っぽに気を取られていると根っこが強くならない。

セビジャーナスのパサーダのところで、つま先と足の甲を伸ばすことに気を取られていて鎌足になっていた(自分)。内くるぶしを前に押し出すと脚の内側とお腹が引き締まります。バレエの経験がなくてもフラメンコを踊れますが、健康に長くフラメンコを踊り続けるためにも、踊りに必要な筋肉はつけたいですね。

(45)軸がどちらにあるのかはっきりさせる。

バレエでは片足でつま先立ちしてそのまま静止したり、片足でつま先立ちで回転したりとバランスを取ることが大変難しい動きをするので、体の軸を必ず意識するようになります。バレエを習い続けることで、自分がフラメンコを教える時にも、軸が左右のどちらにあるのか考えることと、体重移動のタイミングを生徒さんに頻繁にアドバイスするようになりました。軸とは曲がらないもの。軸が見える力強さのある踊りがいいなあと思います。